神秘の国
熱い砂。乾いた風。一人で旅に出た洋子は、異国の小さな町に立ち寄りました。飛行機の時間が気になるのですが、あいにく腕時計は止まってしまいました。
ふと見れば、つながれたらくだの隣に、やせた老人がぽつんと座っています。
「あのう・・・。すみません、今何時でしょうか」
かたことで話しかけると、老人は鋭い眼光をこちらに向けました。
そして、年月が刻まれた繊細な手を、おもむろにらくだの股間にもっていき、そのオスとわかるらくだの、大きなナニをつかんで静かに持ち上げました。
「3時14分」
「あ、ありがとうございます・・・」
老人の謎の動作にあっけにとられると同時に、洋子はその神秘的な光景に圧倒されました。
生きとし生けるものへの慈しみ。古代より受け継がれてきた、神への敬けんな祈りさえ感じ、胸が熱くなる思いでした。
町は迷路のようになっていて、さんざん歩きまわったのに空港への道がわからず、気がつけば、さっきのらくだと老人の前に出てしまいました。
「すみません・・・。今何時でしょうか」
再びきくと、老人はまた鋭い目で洋子を見つめ、神聖なる儀式のように、らくだのナニをつかんで持ち上げます。
「4時48分」
「ありがとうございます。ところで、その儀式の意味をお聞きしてよろしいでしょうか」
洋子はおそるおそるたずねてみました。
「知りたいかね、旅のお方」
「はい。どうしても知りたいんです」
「こうするとじゃな」
老人は、らくだのナニを持ち上げて見せます。
「向こうに置いてある時計がよく見える」