だます心 だまされる心

だます心　だまされる心
安斎　育郎/著
出版社： 岩波書店
サイズ ： 新書
価格： 735(税込)
発行年月： 2005年6月21日

「だまし」には大きな魅力がある．巧みな手品や小説，だまし絵などは，存分に楽しめる．しかし，その魅力にのめりこんで，悪徳商法の被害など，危ういところへ連れていかれることも多い．さまざまな「だまし」のテクニックや狙いを紹介しながら，「だまされ」への道は何か，だまされないためにはどんな姿勢が必要なのかを解説する．

著者はジャパン･スケプティクス(超自然現象を批判的･科学的に究明する会)会長。
オカルトや超能力の類に関しての批判をよく行なっているが
この本では人間の認識の盲点や思考の危うさについて論じている。

一口にだましといっても悪い意味だけとは限らない。
手品やだまし絵と言われるものはだまされる事を楽しむような
ものといっている。ＣＧやＳＦＸもだましと言えなくもないか。
ＴＤＬもだまされて楽しむものだし。

スプーン曲げについて書かれている。
明言こそしてないけれどユリゲラーをさしていると思われる。
彼はもともとイスラエルでは手品師だったはず。

手品であれば,種がわからなくてもすごいなぁで済ませられるけど
手品と知らされず,目の前で不思議(と思えるよう)な現象を起こされ
たらどうだろうか。奇跡と思うだろうか。

島原の乱で民衆を率いた天草四郎は手品を学んでいて,不思議な
現象をおこして見せてカリスマ性を高めたともきく。

人を惑わすようになると問題がある。
霊とカリスマという章では１９世紀欧米ではやった降霊術について
述べられているが,ほぼ詐欺行為を幇助する目的で行なわれている。

著者も述べているように
[客観的命題]と[主観的命題]を区別することが大切だろう。
[客観的命題]とは事実や論理に照らして客観的に判断できるもの。
例としては１＋１＝２,源氏物語は紫式部が書いた。
[主観的命題]とは主観的な価値判断を含むもの。
例としてはピカソの絵はすばらしい,○○は××すべきだ。

よく霊や超能力を信じるかどうか聞かれ,「見せてくれるなら信じる」
というような事を言う人もいるが,これも危険だと思う。
トリックを見破れない時に懐疑の立場からあっさり肯定的に態度が
変わってしまう事もある。

リングのモデルにもなった人物を研究した福来友吉も有名な人物だ。


科学者は思考は理論的で非合理的な論理を排除していると
思われがちだが,科学者としての自負があるからこそ,それが
思い込みによるバイアスにもなって物事の真実を見極める
目を曇らせている。
錯誤という点で４章　科学者もだまされる　の
森鴎外,野口英世,[利口なハンス事件]は意外なところに
問題があり物事への客観視の難しさがわかる。

コナン･ドイル(シャーロックホームズの著者)が妖精マニア
だったり,カール・グスタフ・ユング(心理学者)が晩年神秘主義
に傾倒していったり。合理的な思考ができると思われている人で
不合理な考えにとりつかれる人って結構いるようだ。

だましが宗教やそれに類いする行動に結び付けられる事もよくある。
筆者は地下鉄サリン事件の前にオウム真理教(現アーレフ)を批判
していたそうでオウムから超能力批判の二先鋒として大槻義彦教授
と共に批判されていたとか。
教祖は通常人とは異なり,超自然現象を操れる特殊な能力をもった人
であるべきだと主観的命題を持っている時に,空中浮遊の現象を
見せられでもしたら(実際はひざを使い跳ねているだけでも)
意識していようがいまいが,願望から無批判に信じてしまうのかもしれない。

サイババの「物質化現象」にも触れているが,
権威,肩書きに弱い人ほど,上の人の言う事を鵜呑みにしてしまい,
思考停止に陥り空中浮遊,物質化,超自然科学的現象を信じてしまう
のだろう。

人の生き方[主観的命題]を説く宗教と超自然的な能力とは切り離し
空中浮遊や物質化等の超自然的な能力は[客観的命題]として本来,
吟味する必要がある。

ちなみに自分は無宗教です。宗教の人の心に対する根源的な役割というのは
どの宗教も同じであり,どの宗教がいいとか悪いとかってことは本来ないと
考えます。※法を犯したり,信じない人を攻撃するのは論外ですが…。


超常現象でなくても権威者,専門家の言っていることだからと鵜呑みに
するのは危険だ。理解する事と無批判に受け入れるのとは違う。
疑いの目を持たずとも自分で理解不能ならいったんその考えを受け
入れるのは保留にした方がいいだろう。

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