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生き物をめぐる4つの「なぜ」

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生き物をめぐる4つの「なぜ」
長谷川真理子/著
出版社: 集英社
サイズ : 新書
価格: 777円(税込)
発行年月: 2002年11月
発光生物は何のために光るのか。雄と雌はなぜあるのか。角や牙はどう進化したのか……。生物の不思議な特徴について、オランダの動物行動学者ニコ・ティンバーゲンは、四つの「なぜ」に答えなければならないと考えた。それがどのような仕組みであり(至近要因)、どんな機能をもっていて(究極要因)、生物の成長に従いどう獲得され(発達要因)、どんな進化を経てきたのか(系統進化要因)の四つの要因である。これらの問いに、それぞれ異なる解答を用意しなければならない。本書は、雌雄の別、鳥のさえずり、鳥の渡り、親による子の世話、生物発光、角や牙、ヒトの道徳という、生物の持つ不思議な特徴について、これら四つの要因から読み解くことを試みる。知的好奇心あふれる動物行動学入門。
著者の本は何冊か読んだことあるが分かり易い文体で図や表を用いて
説明されているため理解しやすい。何よりも具体例を豊富に引用して
いるため読んでて面白い。
紹介されているフィールドワークはとても興味深いテーマを扱って
いるけど実際に調査した生物学者はかなり大変そう。
光る生物のホタルであれば…
どのような仕組みか(至近要因)
ルシフェリンと呼ばれるたんぱく質にルシフェラーゼという酵素が働いて
ルシフェリンの一部が酸化される時にエネルギーが放出される。
そのエネルギーが光である。ホタルの腹部の末端に発光器がありその中で
この反応が起こっている。
どんな機能をもっているか(究極要因)
求愛の信号。オスがメスをメスがオスを見つけて配偶するために光のシグナル
を送っている。2つのタイプがあり1つはメスに羽が無く,じっとどこかに
とどまって一定の光シグナルを発し、それをめがけてオスが飛んでくるタイプ
もう1つはメスにも羽があって飛んでいるけどオスが飛びながら非常に明るい
光シグナルを発し,それに対してメスがその種に固有のシグナルで応え、何回かの
やり取りのうちに両者が出会うというタイプ。
生物の成長に従いどう獲得されたか(発達要因)
ゲンジボタルの場合,卵がメスのおなかの中にいる時から光っているそうですが
産み付けられたばかりのころは光が非常に弱く日がたつと光がだんだん強くなる。
ホタルの発光器は脂肪体,他の動物で言うと肝臓にあたる働きをしているところ。
どんな進化を経てきたのか(系統進化要因)
ホタルの仲間は3つのグループに分けられます。1つ目は昼間に活動する光らない
種類で,メスの出すフェロモンをオスが触角で嗅ぎ分ける事によって相手を見つけます。
2つ目は羽の無いメスが自分の巣である地面の穴のそばでぼーっと光ます。オスは
光らずに空中を飛び,光っているメスのところにやってきて交尾をする。
3つ目は光を点滅させるホタルでオスが飛びながら自分の種に固有の点滅信号を発し、
メスがそれに応え、やがて一緒になる。
ホタルの系統関係を見ると昼間に活動する光らない種類が最も原始的でそれから
メスだけが光るタイプ。最後に点滅方のホタルが出現したようだとのこと。
実際はもっと豊富に例が挙げられています。
それ以外にも捕食者(ホタルを食べる生物)が偽の信号を発しておびき寄せたり,
オス同士の競争が激しくなると捕食者のフリをして光り,他のオスを追い払ったり
とだましあいが行われているそうです。
系統進化においてはミッシングリンクにあたるような種の例も挙げられており
生物の不思議さ,生き残る為のまたは求愛行動の巧みな戦術におどろきました。

学校で使う教科書ってつい数十年前までは最先端で研究されていた内容が
載っているって聞いた事ありますが,専門家の書物ならつい最近の説なども
盛り込まれているのではないでしょうか。(この本は2002年出版ですが)

ちょうどこの本を読み始めた時に月刊科学雑誌 『Newton』の2006年02月号の
特集(性を決めるカラクリ,『X・Y染色体』)を目にする機会がありパラパラと
手にとってみましたが この本の「第一章の雄と雌」で述べられていた事とも
重複する部分もありました。
最先端の研究ともつながりのある内容であり他の章に関しても内容が古く色あせた
ものではないと思いますよ。
他にとりあげられている項目内容とちょっとした感想
鳥のさえずり(さえずり方は遺伝なのか他の鳥の鳴き声を真似して覚えていくのか
どうかの検証が面白かった)
鳥の渡り(どうやってわたりの時期を知り方向を知るのか?渡り中の鳥を無理やり
別の場所へ連れてって放して正しい目的にたどり着けるかの実験結果は意外)
親による子の世話(子供を育てる生物もいれば産みっぱなしで全く世話をしない
生物もいるその選択にはある仮説があり,納得いくけど検証は不可能らしい)
角と牙(鹿は毎年角が生え変わるのだが大量のカルシウムを摂取する事になるので
非効率そうだが…角の生成と脱落には傷が治る仕組みと関係あるそうだ)
人間の道徳性(主に著者の持論が述べられているが人文科学的な見解ではなく
生物学からの考察であり興味深い)

この著者の他のおすすめ著書

「進化とはなんだろうか」  岩波ジュニア新書
 
「オスとメス=性の不思議」 講談社現代新書